発作の 3 分間に、広告を出さないと決めた話

なぎもりは、電車や会議など途中で抜けにくい場面で不安が強くなったときに、音声や振動の合図で呼吸を整えるための日本語のセルフケアアプリです。

この記事では、どういう考えで作ったかを書きます。機能の説明というより、設計のときに何を決めて、何を捨てたかの話です。

探しても、ちょうどいいものが見つからなかった

作り始める前に、まず既にあるものを調べました。

呼吸を整えるアプリも、瞑想アプリも、記録アプリも、たくさんあります。ただ、「いま、この 3 分間をどうにかしたい」という用途で探すと、条件がなかなかそろいませんでした。

このうち 2 つは満たしていても、 3 つ全部となると見つけられませんでした。海外製のものは日本語版があっても翻訳が機械的だったり、日本のユーザーからの評価がごく少数しか付いていなかったりします。

機能が足りないというより、日本語で、この用途で、安心して使えるものが空いている。そう判断したのが出発点です。

「治すアプリ」にしないと決めた

最初に決めたのは、治すことを名乗らないという方針でした。

理由は 2 つあります。

ひとつは、法律上の理由です。アプリが治療や診断の効果をうたうと、扱いが変わります。なぎもりは医療機器ではありませんし、そう名乗るつもりもありません。

もうひとつは、こちらのほうが大事だと思っています。

「治すアプリ」だと言った瞬間、治らなかった日の体験が「失敗」になってしまうからです。

その日うまくいかなかったこと自体を、アプリのせいでも、使った人のせいでもない形にしておきたかった。

だから、位置づけを「お守り」にしました。お守りは、持っているだけで役に立ちます。使わなかった日も、うまくいかなかった日も、失敗になりません。

いちばんつらい時間に、売り込まない

これが、いちばん強く決めたことです。

呼吸ガイドの画面と、相談窓口の画面には、広告も課金の案内も置きません。

理由は単純で、いちばんつらい時間に売り込まれるのは、たぶん最悪の体験だからです。

この方針は、実装のあちこちに影響しています。

呼吸ガイド、 5-4-3-2-1 グラウンディング、記録、相談窓口。このあたりは無料のまま提供します(任意の有料プランもありますが、上記には課金の壁を置きません)。

収益を軽んじているわけではありません。サーバー代、ストアの登録料や年会費、ドメイン、端末。アプリを出したあとも費用はかかり続けるので、最低限の運用費をまかなえる形は取りたいと思っています。そうでないと、続けられなくなって、結局いちばん困るのは使っている人だからです。

ただ、優先順位はつけました。「道具として信用して使えること」を、収益の前に置く。いちばん使われる場所に導線を置くのが定石なのは分かっていますが、この用途でそれをやると、道具そのものが信用できなくなると考えました。

声でついていける形にした

波が強いとき、画面の文字を読むのがつらくなることがあります。次に何をするか考えるのも、同じくらい難しくなります。

だから、声の誘導を用意しました。目を閉じたまま、声についていくだけで呼吸ができるようにしたかったからです。

「すって」「とめて」「はいて」の合図と、落ち着くための短い言葉。音声は VOICEVOX で作ったものをアプリに同梱しているので、通信がなくても鳴ります(クレジット: VOICEVOX:冥鳴ひまり)。

この声の誘導は、有料プラン「なぎもりプラス」の機能にしています。無料の範囲でも、画面の円と振動で同じリズムを受け取れます。発作のときに使う呼吸ガイドそのものは、無料のまま残しました。

細かいところですが、音声の再生に失敗しても、エラーは出しません。つらいときに「再生できませんでした」と表示されても、どうしようもないからです。黙って、画面と振動のガイドだけが続きます。

場面によって、合図の出し方を選べる

いっぽうで、電車の中や会議中は、音を出せません。

そこで、合図の出し方を選べるようにしました。

音声のオン・オフは、これとは別に切り替えられます。

無音で使えることは、アプリの本質ではありません。本質は「そのときの場面で、いちばん受け取りやすい合図を選べること」です。家でひとりのときは声で誘導してもらい、通勤電車では振動だけにする。同じ人でも、日によって変わります。

そのうえで、外から見える面には気をつけました。

最後の 1 つは、地味ですが重要だと考えています。つらいときにアプリを探して、開いて、メニューから選んで……という手数は、そのときの状態ではかなりの負担になります。

通信を前提にしなかった

地下鉄、機内モード、電波の届かない場所。不安が強くなりやすい場所は、通信が不安定な場所と重なります。

なので、発作時に使う機能は通信を使わずに動くようにしました。呼吸ガイドも、 5-4-3-2-1 も、音声も、端末の中だけで完結します。記録も端末内に保存されます。

アプリにできないこと

ここまで書いてきましたが、正直に書いておきたいことがあります。

うまくいかない日があります。

呼吸を整えても落ち着かない日、5-4-3-2-1 を最後まで数えても何も変わらない日、アプリを開く余裕すらない日。

そういう日は、あります。どんなに作り込んでも、アプリはそこを 100% にはできません。

そして、なぎもりは医療の代わりにはなりません。

つらさが続くとき、生活に支障が出ているとき、自分でもどうしていいか分からないとき。そういうときは、医療機関に相談するのがいちばん確実です。

通勤や職場での不安については、厚生労働省のこころの耳 にも情報がまとまっています。

なぎもりが担当できるのは、受診するまでの間や、診察と診察のあいだの時間、あるいは今日これから電車に乗る、その数分くらいの範囲です。

その範囲を、できるだけ丁寧にやることにしました。

これから

まだ公開したばかりで、足りていないところがたくさんあります。使ってみて気づいたことがあれば、サポートページから教えてください。

ひとつだけ、変えないと決めていることがあります。

いちばんつらい時間に、売り込まない。

ここだけは、この先どれだけ数字が伸びなくても守ります。

よくある質問

なぎもりは「治すためのアプリ」ではないのですか。
違います。医療行為・診断・治療を目的とするものではなく、不安の強い時間を乗り切るための道具として作っています。気になることは医療機関にご相談ください。
発作時に使う機能が無料なのはなぜですか。
いちばんつらい時間に、支払いの判断をさせたくないためです。呼吸ガイド、 5-4-3-2-1 、相談窓口などは無料のまま提供しています。
記録したデータはどこに保存されますか。
記録は端末内に保存されます。詳しくはプライバシーポリシーをご確認ください。

なぎもりは、電車や会議など途中で抜けにくい場面で不安が強くなったときに、音声や振動の合図で呼吸を整えるための日本語のセルフケアアプリです。

Android 版はGoogle Playで、iOS 版はApp Storeで公開しています。


本記事となぎもりは、医療行為・診断・治療を目的とするものではありません。症状が続くとき、つらさが強いとき、心配なときは、医療機関にご相談ください。緊急時は 119 番、またはアプリ内の相談窓口をご利用ください。